cork board cafe
- Location :
- 城崎温泉,兵庫
- Type :
- 遊興施設+レストラン
- Completion :
- 2024年10月
- Photo :
- 太田拓実
兵庫県の日本海側に位置する城崎温泉。
多くの文筆家が逗留することでも有名なこの街に、新たな遊びと食の拠点となる空間をデザインしました。
プロジェクトの背景
温泉街の夜の賑わいを象徴する射的やスマートボールといった遊興施設は、後継者不足などの理由で数を減らしていました。
クライアントは遊興文化も街の財産だと感じ、次世代へと残したいと日頃から考えていました。
また、城崎温泉では夜も開いていて、かつ子供と大人が共に楽しめる場所があまりないことも懸念していました。
そんなある日、近くの旅館が廃業されると聞き、その建物を取得してこれらの想いをカタチにしようと動きはじめ、これまで宿の改装でご一緒していたわたしたちのところに相談があったという始まりです。
デザインのポイント
『CORK BOARD CAFE』は、射的を中心に据えたコミュニケーションの場であり、温もりを感じる素材とデザインで家族や友人が自然に集まれる空間を目指しました。
空間の中心に配置した射的カウンターは、従来と異なり的の後ろにも回れる設計とし、新たな視点の楽しさを提案。訪れた人が写真を撮りたくなるスポットとしての機能も考慮しました。
内装材には、射的の球に使われるコルクに着目し、床壁天井、家具など多くの箇所に取り入れました。
コルクは調湿性や吸音性を持ち、優しいアースカラーで空間に落ち着きを与えてくれるので、プロジェクトのコンセプトにもマッチしており、最適だと感じました。
壁の左官材にはコルク片を混ぜ込み、テクスチャを加工品のコルクの表面のようにしています。
射的カウンターは子供が動き回ってぶつかることや、肘をつくことを考慮し角を大きなR面に。仕上げを和紙貼りとし柔らかな質感を表現しています。
開放的で街に開かれた空間構成
2階の床を一部撤去し、吹き抜けを設けて開放感を強調しています。
また、吹き抜けに面した壁には元の部屋にあった床の間を残し、内装の履歴が感じられるように。これに伴い、貧弱であった構造耐力の向上のために耐震補強を施しています。
外観
外壁と軒下には炭化コルクを使用し、統一感を演出。
コルクを炭化させることで屋外利用が可能になる耐久性を獲得した材料は、無機質になりがちな建物の外観に温かみのある風合いをもたらします。
客席に面した開口部は外壁側に全ての建具を引き込む設計とし、路地と一体化した縁側空間をつくってお客さんの心のハードルを下げるデザインとしています。
サイン計画
ロゴはコルク片を集めて一つの材料をつくるイメージを利用しており、小さなブロック(=人)が集まったり離れたりする動きをモチーフにしています。
また、昔のTVゲームのような解像度が低い文字で射的のゲーム性を強調しています。
これは紙の上でのデザインが、物理的な看板になってから分かったことですが、遠くから見るとはっきり見え、近づくと解像度が落ちて読みにくくなるという、一般的な意識とは逆になるデザインとなっていて、よりふさわしいものになっていると感じました。
最後に
『CORK BOARD CAFE』は、無くなっていく遊び場をこれからも残していく場所として再生しました。
温泉街の風情に溶け込みながら、訪れる人々にひとときの興奮と安らぎを同時に提供する場所になれば幸いです。
この空間が、街の記憶をつなぎ、人々の笑顔を育む場として長く愛されることを願っています。
営業情報などはこちらのプレスリリースに詳しいです。
設計:株式会社ワサビ 笹岡周平 和田朝美
施主:有限会社錦水旅館
施工:株式会社キクスイ
和紙提案・施工:紙漉キハタノ
照明計画:KOIZUMI
ロゴデザイン:amanojack design 三原賢治
写真:太田拓実