設計工程を見直すといろいろ見えてくる。

長年眠っていた工程表作成アプリ(Omni Plan)を引っ張り出した。
工程表2
 
購入した時は全然使いこなせなかったが、今はすっと使えるようになった。当時は実際的なスケジュールをきちんと組むには経験が足らなかったのだろう。
設計の工程は、細分化すれば当然シングルタスクの連続になるが、数の多さと前後依存関係の多様さ、案件ごとに前提条件が変わる特性などがあるので、一般解として書き出すことを諦めていたところも原因かもしれない。
 

「漏れ」は許すまじ。工程にリンクしたチェックリストの効能

タスクにはリソース(主に担当者)の割当をしているので、スタッフ担当タスクだけをフィルタリングして、カレンダーに書き出してあげると、毎日何をやれば良いかがすぐわかる。
 
工程表ではタスクは細分化しすぎず、ある程度の粒度に抑えている。(でないと見る気がしなくなる。)
 
細かいタスクは各項目にファイルを添付、開くとチェックリストにもなっているという仕組みにしている。すべてを書き出せている訳ではないので、今後少しずつ整えていくつもりだ。
 
この仕組みにすると、何度経験してもなぜか忘れてしまう、カーテン類が防炎かどうかの確認といった、後で気づいて困るような事態を事前に防ぐことができる。
また、多岐にわたる調整事項がタスクの依存関係ラインでビジュアル化されるので、新人さんに段取りを教えるのがすこぶる楽そうだ。
 
 

工数わからずになぜ費用が出せるのか。

ワサビでは設計料を、大きく2つのコストの合算で算出している。
①業種や規模から推測される設計にかかる時間に人のコストを乗じた基本費用
②良いアイデアに対する対価(時間に変えられないもの)
この二つだ。
一般的な認識としては、設計料は「工事費の◯◯%」というのを良く耳にするかもしれない。
実際このように考えるところもあるし、事務所独自の坪単価×面積で算出するところもある。まちまちなのだ。
「デザイナーは工数とかチマチマしたことは言わずに、自分の価値に自信を持って値付けすれば良い」というクライアントにも(幸運なことに)出会ったこともある。
しかしながら、このような多様性がデザイナーに仕事を頼む際の敷居の高さになっていることも否めない。
 
このように、設計料には様々な算定方法があるが、自分の性質として、何かしらの根拠がないと落ち着かないので、やはり「どれだけの人がどれくらいの時間を費やすのか」は知っておきたい。
工程を組む=作業時間を推測して落とし込むのだから、当然担当者のトータル作業時間が算出できる。時給いくらなら、実際にどれくらいかかるのかが明確にできる。
 
事務所を運営するのに最低限必要なコスト(=①の人件費と事務所経費など)は可能な限り精度高く算出しておき、②に対してどれくらいの対価を求められるのかと自分でハードルを上げておいて、日々緊張感を持って仕事をしたい。
 

最後に

工程を作ってみて改めて感じたのは、外部要因に依存するタスクの多さだ。一つのタスク処理のズレが他に及ぼす影響が大きいし、それが複数プロジェクトを抱えていようものなら、あっという間に調整ばかりで数日、なんてことになりかねない。
 
事前に予測をし、きっちり進めることで、無駄な時間を減らし、その余剰分をより高いスキルを得る時間に変えて行きたい。

店舗を対象としたM&A時における設計事務所のデューデリジェンス業務について

タイトルにやたらと横文字が多いですね。すぐに意味のわからないビジネス英語はなるべく使わないでおこうと思いつつ、その業界では一般的な言葉なので使ってしまいました。

「M&A」は近年良く耳にしますので馴染みがあります。
merger and acquisition [企業の合併・買収]

「デューデリジェンス」こちらは馴染みないですね。
due diligence [
投資用不動産の取引、企業買収などで行われる資産の適正評価。資産や買収対象企業の価値、収益力、リスクなどを詳細かつ多角的に調査し評価すること]

「デューデリジェンス」について、設計事務所の業務範囲を耳馴染みのある言葉で表現すると、「居抜き店舗を購入する際に、既存設備や内装がきちんと使えるかどうかをチェックすること」のようになります。
このように語られる時は、小さなレストランや居酒屋、美容室などの買収のことを指すことが多いです。
タイトルのような言葉が飛び交い始めるのは、ホテル・旅館の類か、多店鋪展開している事業の場合がほとんどですね。買収する側、される側どちらにも財務担当者が専任でいるような規模の企業の場合です。

この話と設計事務所にどんな関係があるのか、ということですが、買収する側のクライアントの求めによって、店鋪の内装や設備をチェックする業務を依頼されることがあります。
何件かこのような事案を受けた際に、設計事務所側の立場から思うことがありましたので書くことにしました。

 

基本的な業務内容は?

先ほども書きましたが、「既存設備や内装がきちんと使えるかどうかをチェックすること」これがほぼ全てです。具体的に挙げると以下のような項目があります。

  1. 内装(床・壁・天井・造作など)の劣化具体を確認、修繕が必要な箇所の洗い出し
  2. 電気設備(照明器具、コンセント、防災設備など)の数量、設置場所、総電気容量の確認
  3. 機械設備(空調機その他機械類)の現状の計画、機器類のメーカーや型番、発売年などの確認
  4. 給排水衛生設備(厨房器具、グリストラップ、水栓金具やトイレなど)の数量、設置場所、上下水容量の確認
  5. 建物の躯体構造の調査 コンクリート造なのか鉄骨造なのか、隣接する区画との間仕切り壁の仕様、床下から、天井からその先にある躯体までの寸法、柱梁など構造材の実寸、など。
  6. 周辺環境・立地
  7. 関連法規のチェック

どの項目も、最終的には「買収後に改装にかかる費用を算出するため」に必要になるのであり、設計のための前提条件となります。こうやって書き出すとわかりますが、新築よりも既存設備がある分、調査項目が多く、かつ煩雑です。ものが多いため見えない場所も多く全てを正確に認識できない場合も多々あります。調査報告書を作成するにも結構な時間がかかります。

 

既存設備をチェックするだけでは本来の目的を達成できない

「調査項目は改装にかかる費用を算出するために必要」と書きました。これは至極当然なので問題無いのですが、実はこれだけでは十分ではありません。もっと大事な調査が抜けてしまっています。どういうことか、具体例を出して説明したいと思います。

 

 あなたは旅館のオーナーで、他県に出た売り案件の話を聞いて見にいきます。周辺環境もよく、基本的な内装や設備もそれほど劣化していなかったので、提示された価格を考えると割安かな、と考え購入を決めました。ただ、周辺環境が良いわりに、お風呂の位置が悪いと感じました。そこで、川越しに雪が積もった山がみえる、眺望の良い客室部分にお風呂を移設すれば良いかと考えていました。

 買収も特にトラブルなく完了し、いよいよ改装をする段取りになり、設計者に考えていたお客室を数室解体して浴室にする計画の話をすると、客室部分の躯体構造は大量の水の重量に耐えられる設計になっておらず実現するには構造補強をしなければならない。という返事がありました。

 

この例え話から私が言いたい「大事な調査」とは、想定している将来の使い方を、買収対象の施設でしようとした時のリスクの調査です。予め立てていた事業収支計画が、物件の購入後に大きく変わってしまうことを回避しましょう、ということです。そのためにはハードの事前調査が必要なことに変わりはありませんが、最も重要なのは、将来そのハードを使ってやりたいことを設計者に事前にきちんと認識してもらうことです。認識されていれば、その目的が達成できるかどうかに主眼をおいた調査になるのは言うまでもありませんし、買収価格以外にふいにかかるコストの目安が立てられることになり、目標としていた事業収支と実際の数値との乖離を買収前に小さくできると思います。

この話は例え話にあったような大きな旅館のM&Aの話だけではなく、スケルトンのテナントを貸りるケースでもありえる話です。例えば、ラーメン屋を開業するためにテナントを借りたが、もともと事務所用途としてつくられた区画であったため、ラーメン屋で必要な換気量が十分にまかなえず、適正にするにはコンクリート躯体に大きな穴を開けなければならないが、建物オーナーは拒否しており、、他にもガスや水道の容量がそもそも足りず、、といった話を聞くこともあります。

要するに依頼する順序が悪いだけなのです。

大なり小なり、どんな案件でも、あとで想定外のコストが出ることを防ぐには、不動産屋さんと物件を見に行く前に設計者にどんな店舗をつくりたいのかを伝えておき、設計者と一緒に物件を見に行く、これに尽きます。この順序はずいぶんと認識されてきているように思いますが、まだまだ一般的とは言えない状況です。

チャレンジしたいという多くの事業主さんに認識していただき、お店を運営することに集中していただける状況をつくりたいと思います。